第八十七話 もりたろう

第八十七話 もりたろう


皆さま、素敵な日曜日をお過ごしですか?

ワタクシ道草は先日素敵な出会いをしてしまして、今回はその時のお話をさせていただこうと思います。

それではどうぞ。



「もりたろう。」

ある日の夜、打ち合わせを兼ねた食事をしていた。
気持ちの良い陽気だったのでひとつしかない外の席を選び、気分はすっかりテラス気分。ビールケースを椅子がわりに、大衆居酒屋を存分に満喫する。ひと通り仕事の話も終え飲んでいると、『可愛いね!』といきなり声をかけられた。こんなおじさんを可愛いっていってくれるなんてとふと見上げると、そこにはひとりの少年が立っていた。『ありがとー』と言葉を返すと、なんだかもっと喋りたがっている様子が伺える。いきなり彼は『これ食べていい?』と聞いてくる。驚きつつも手をつけてないものだったので、一緒に席を囲むことになった。

彼の名は”もりたろう(仮名)”。苗字は知らない。
14歳の中学3年生。眼をキラキラさせてモリモリ食べ始める。よっぽどお腹をすかしていたのか、一瞬で平らげてしまった。話を聞いたら、もうすぐバスの時間だから急がなきゃいけないとのこと。乗り遅れたら大変。。。急いでバス停に向かわせた。



「5分後。」

別れて5分後。
もりたろうが戻ってきた。結局乗り遅れて、次のバスまで20分あるからとまた席に着く。息子の1つ上だけど、とても素直で天使のような子。あ~可愛い。こうなるとお父さんスイッチが入ってしまう。

『焼きそば食べるか?』との問いに、『食べる~!!』と即答。ピアノ教室の帰りで今日が最後だからもうここには来ないとか、好きな食べ物は偶然にも焼きそばだとか、いろいろ話を聞かせてもらった。怖い大人もいるからむやみに話しかけないようにねと、一応それらしいことも伝えておいた。



「メンチカツ。」

焼きそばもそろそろくる頃、もりたろうはメニューを凝視、メンチカツも食べたいと言っている。
バスの時間まで残り10分。揚げ物は時間もかかるし、またバスを乗り過ごさせたら親御さんに申し訳ないし、帰ってうちのご飯も食べるって言ってたし。いろんなことが頭を巡りあきらめるよう説得するが、一度食べたいと思ったら後には引けない若干パニック気味のもりたろう。みるみるうちに顔が曇る。こういう場合、頭ごなしに「だめ!」という言葉を使うべからず。

まずはスタッフさんに事情を話し、優先的に作ってもらえるかお願いしてみる。それでも8分ほど掛かるとのことをもりたろうに伝え、もしバスの時間がきちゃったら食べずにちゃんと行くという約束をした上で、メンチカツもオーダー。そんなことをしてたら焼きそばが到着。『美味しい!美味しい!』と連呼しながら、お箸を上手に使ってキレイに食べるもりたろう。

食べ終えると、あとはメンチカツの行方だけが気がかりに。いきなりの相席、もりたろうの存在、バス事情、スタッフさんも巻き込まれながらなんとか希望を叶えてあげたい雰囲気が漂う。そんなこんなで残り2分、大きなメンチカツがやってきた。もりたろうは大喜び。揚げたてなのにも関わらず、満面の笑顔で熱々のメンチカツを頬ばる。火傷しないようにと声を掛けつつ、食べる姿になんだかこちらも心が洗われる。キャベツもしっかり食べて、あっという間にキレイなお皿だけになった。

もりたろうは、店中に響き渡るぐらい大きな声で『ありがとうございました~!!』とスタッフさんにお辞儀をして、お店をあとにした。見えなくなるまでずっと手を振っているもりたろう。

バス間に合わなくなっちゃうよー



「まとめ。」

同じ曜日、同じ時間、同じ場所に行っても、もうもりたろうとは会えない。
一期一会とはよく言ったもので、バタバタだったけど楽しい時間を共にした貴重な出会い。

なんなんでしょ、これは。
自分に素直に一生懸命、嬉しいものは人一倍嬉しくて、残念なことも人一倍。
こんなピュアなもりたろうの余韻がずっと残り続けているワタクシ道草次郎。
コラムにも書いてしまうほどに、ずっと忘れられない日になった。

ありがとう、もりたろう
いつかまたどこかで一緒に道草しようぜい

それではまた来週。

ボクの話

道草次郎 物書き
執筆活動を中心に、ディレクションからモノづくりなどにも取り組むマルチプレーヤー。
本サイト内『じろうの道草』で、コラムも担当する。
素性は如何に。
ミスター・アウル
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