第六十五話 すずめの戸締まり
11月11日。
ずっと待ちに待った日の目的は『すずめの戸締まり』。
新海誠監督の最新作。
今回は監督の話をメインに、始まって間もないのでストーリーはネタバレしない程度にちょっとだけ。
それではどうぞ。
「レイトショー。」
ここ数年、楽しみな映画があると公開初日のレイトショーで観ることが増えた。
『決まり事』にしてるわけではない。ただ待ちきれない衝動を抑えきれないだけ。どうせ観るなら空いている夜中に、しかも同じモチベーションを持った観客たちの見えない一体感を味わうことができるのも楽しみのひとつ。
最近はもっぱら自転車移動。
副主宰とおじさんふたり、夜中に六本木ヒルズへ自転車を走らせる。寒くなってきたものの、自転車を漕いでいると寒さなどまったく感じない。映画館は一番後ろの席真ん中がベスポジだと、昔、映画評論家の水野晴郎が言っていた。立体的な音響システムに進化しているいまの時代に当てはまるかは判別不能。晴郎氏を信じ、アイスコーヒー片手にいざ一番高いところへ。
入口で<新海誠本>たるものを貰い、待望の『すずめの戸締まり』
はじまりはじまり~
「新海誠監督。」
その前に、新海誠(しんかいまこと)監督についてちょっと話をさせてほしい。
2016年に大ヒットした『君の名は。』のアニメーション監督。2019年の『天気の子』なども記憶に新しいのではなかろうか。雑誌作りをしていたときに編集スタッフから新海誠の存在を教えてもらった。『言の葉の庭』『秒速5センチメートル』と片っ端に観てすっかり<新海ワールド>にはまってしまった。中二病発動。
新海誠監督の作品は、なんでもない日常の一コマを緻密で繊細に表現する。空や雲、雨や雪、太陽や草花といった自然に、学校やビル、駅や電車、電信柱や自販機などの人工物が混ざり合うコントラスト。みんな知ってる日常なのに、見たこともない色彩を帯びた世界が広がる。映像からはどこか懐かしくて、情緒的で感傷に浸ることができる。ストーリーは人が抱く純粋な部分をクローズアップした作品が多く、どれだけ壮大で非現実的な世界であろうと本当に大事なものは何か、人に寄り添い、感情の揺れ動き、人としての本質を突き付けられる。
音楽を担当している<RADWIMPS>が映画をさらなる高みに押し上げているのは周知のこと。新海誠と野田洋次郎の天才ふたりがタッグを組むと、こんなにもなってしまうのかと衝撃を受けた『君の名は。』。『天気の子』に続き『すすめの戸締まり』で3作連続。
観ている方も<RADWIMPS>じゃないと困ってしまう。
「すずめの戸締まり。」
椅子を抱えた少女。背中を向ける青年と扉。
その先に広がる、幻想的な光景ーーー
映画館に入る前に配られていた『新海誠本』に書いてあった言葉。
要約するとこういう映画なのだが、少女・鈴芽(スズメ)と青年・草太(ソウタ)の日本各地にある『後ろ戸』を閉じるふたりのロードムービー。地震や疫病など厄災の原因である『後ろ戸』。予告にも出てくる不思議な猫・ダイジンと、一本脚のない椅子も本作に欠かせない重要なキャラクター。
もっとストーリーを書きたいのだけれど、あえてこれぐらいの情報で映画館に観に行っていただきたい。後悔させませんから。終わった後の余韻もすごいんです!
来週あたり、もう一回観にいこうかな。
「まとめ。」
この貰った『新海誠本』を読んで。
新海監督とは、学年は違えど同じ1973年生まれ。
「われわれ人口の多い団塊ジュニア世代と日本という国の老化をシンクロさせてしまう感覚がある」と綴っている。また「『君の名は。』を作った40代前半では今回の作品のモチーフは持てなかったし、裏を返せば、49歳のいまの僕には『君の名は。』のような運命の赤い糸のような物語を当時ほどの強度では作ることができない」と。
「世の中にはエンタメが溢れ、送り出すスピードも、消費されるペースもますます速くなっている。だから自分の中にあるものを磨き続けて、全力で放つしかない。」とも語っている。抜粋しているので前後の文脈あってのものだが、自分の中にじわじわ浸透してくるし、ものすごく突き刺さる言葉。
<いましかできないことを、一生懸命やるしかない>
単純だけど、そんなメッセージをいただいたようだ。
がんばろ!