第十三話 なべ焼きうどん
ここ数年「町中華」なんて言葉が定着し、メニューの多さとノスタルジーな店内の居心地の良さが見直されている。ボクとしてはうれしい限り。ひとりでどれだけ行ったことか。
同じく双璧をなすジャンルといえば、「町のおそば屋さん」。藪、更科、砂場のような老舗そば屋もいいのだか、ボクが好きなのは昔から家族でやられているような大衆的なおそば屋さん。
今日出前を頼んだこともあって、そば屋にまつわる話をしよう。
「もはや貴重。」
「町のおそば屋さん」には、昔から縁がある。
親戚がそば屋をやっていて、好きなものをなんでも食べさせてくれることもあり、いつも行くのが楽しみだった。そうそう、大晦日に年越しそばの出前の手伝いをしたこともあったっけ。
「町のおそば屋さん」の特徴として、そばがあり、うどんがあり、丼もの、つまみ、中華そば。あんかけじゃないそば屋のカレーライスも大好きで、とにかくメニューが豊富。木製のイスとテーブル、畳の小上がりなどもあったりして、和の店内がやけに落ち着く。
ここでひとつ疑問を抱く。
よく考えたら、「町のお蕎麦やさん」が新しくオープンするって、ボクはいままで目にしたことがない。リニューアルならまだしも、わざわざ手間のかかる「昔ながらのおそば屋さん」をこれからやりたいという人はきっと少ないのだろう。立ち食いそば屋やこだわりの”蕎麦”一本の専門店などは、ちょいちょいできているのはわかる。だけど「町のおそば屋さん」は、無くなることはあっても増えていくことはなかなかないのだ。
「ボクのテリトリー。」
父が難病にかかった。
糖尿病も患っていることから、最近は食事制限を余儀なくされている。たまに男同士でランチをすることもあり、その時ばかりは食べたいものを一緒に食べている。そんなことをするものだから、母にいつも怒られている男たち。
最近、ボクがよく行くお店に連れていくというのが好評で、以前紹介したグレースのオムライスももちろん食べてもらった。
ある日「なべ焼きうどん」が食べたいということで、よく出前をとる事務所近くのそば屋に連れていった。甘くてしょっぱくて味の濃いのが江戸っ子好み。まさにうってつけな「町のおそば屋さん」。
店内に入るとメニューもろくに見ず、「なべ焼きうどん」とボクのオススメ「天丼」をたのむ。どちらもエビの天ぷらカブり、さらにはそば屋でおそばを注文しないのもどうかと思うが、いつもおかめそばを出前してもらっているので今日ばかりはこれでよし。
小皿をもらい、分かちあい。
「はじめまして。」
朝日屋、増田屋、長寿庵。
暖簾分けなのか、そば屋さんによくある店名だなとずっと思っていた。そして今回登場する店名も代表候補。
恵比寿駅にほど近い、明治通り沿いにある<松月庵>。大都会にポツリとある、家族でやられているまさしく「町のおそば屋さん」。出前の電話口から聞こえてくるのは、いつも女将さんらしき人の声。住所、ビル名、階数と、書き留めるスピードに合わせて順序よく伝える。よく注文するから、勇気を出してビル名と階数だけにしてみたら「いつもありがとうございます~」と常連認定を受けたのが数年前。
配達をしてくれる息子さんはもちろん顔馴染み。女将さんは、声だけでわかってくれるようにはなったがまだ会ったことがない。そう、この父とのランチで初めてお会いすることができたのだ。
席について注文を取りにきてくれたタイミングで諸々伝えると、「あら~、想像していた通りの人だわね~」というどちらとも取れない答えが返ってきた。父もいたことだし笑ってくれていたので、嫌な方面ではないと信じよう。
そんなはじめましてをしてからというものちょっと小恥ずかしい感情が芽生えたが、コトあるごとに今日も出前を頼んでいる。
「まとめ。」
たわいもない日常の出来事。
そば屋というお題だけで、いろんなストーリーがあるものだ。
「もはや貴重。」
これは町中華にも言えること。この貴重なお店たちをなんとか残してほしいと切に願う。
「ボクのテリトリー。」
当初父とは毎週水曜日に会う約束が、忙しさにカマかけて月イチぐらいになってしまっていることに、ボク自身不甲斐なくいたたまれない気持ちを抱いている。。。ということを、コラムを通じて伝えてみる。
「はじめまして。」
人との距離感が遠くなったのか近くなったのか、もはやわからぬ時代になってきた。こんな時代だからこそ、こういった人と触れ合える場所にみんなが惹かれるのも同感、ただただうれしい気持ちになる。
締まりの悪いまとめだが、今週はこれまで。あしからず。