第十二話 お宝探し!
なんて良い響き。
現実的ではないものの、似たようなことがあったら人を虜にしてしまう。金の採掘で賑わった19世紀のカリフォルニア<ゴールドラッシュ>も人々を魅了し狂わせた。
そこまでではないが、ボクが没頭していた『お宝探し』の話をしよう。
「90年代 アトランタ。」
ここは、アメリカ南部最大の都市アトランタ。
マーガレット・ミッチェル作「風と共に去りぬ」舞台の地。映画「マルコムX」でお馴染みマーティン・ルーサー・キングJR、敬愛する映画監督のひとりスパイク・リーもアトランタ出身。数々のミュージッシャンやアーティストを輩出した場所。
ひと通り紹介をしたうえで大学時代過ごした90年代のアトランタといえば、アメリカで一番の犯罪発生数を誇る。現に、レストランで食事を終えて出てきたら停めていた車のタイヤがなかったり、高速道路で走っていたら並走する車に拳銃を突きつけられたり。車上荒らしなんて日常茶飯事、銃声なんて週に一回は聞こえてくる。
まだまだ人種差別も根深い地方都市なのに、音楽やアート、ファッションなどのカルチャーには卓越した側面を持つ。南部料理も美味しくて、良くも悪くも古き良きアメリカを感じることができる。
「師匠との出会い。」
アトランタに11年住んでいる小林さん。
歳の差10は違う、学生だったボクにとってはかなりの年上。小さくてずんぐりむっくり、愛嬌があり喋りはおもしろい。とてもフランクで上下関係を気にしないあまり出会ったことのないタイプ。年上には敬語を使うことを重んじてきたボクが、会ってすぐ小林さんのことを『こばお』と呼んでいた。しかもタメ口。今なお振り返っても、年上にタメ口をきいたのは『こばお』ただひとり。
彼の職業は、バイヤー。ヴィンテージの古着や家具、レコード、カメラ、ポスターなど様々。プロダクトデザイナーモノになるとそれはそれは数知れず。とにかく知識の塊のような人で、魅力を感じないわけがない。学校が終わると毎日会いに行き、ヴィンテージの教えを乞う。学校とは違い、英語で書かれた資料本を読み倒す。大量のコレクションを見せてもらい触れさせてもらう。価値のある名品の数々。
こんな世界があったこと、ボクの視野を広げてくれた師匠との出会い。
ここからボクのバイヤー期がはじまった。
「お宝ゴロゴロ」
『こばお』の買い付けについていくと、お店、探しかた、モノの価値、値段交渉など余すことなく教えてくれる。
今では定番になってはいるが、当時知る人ぞ知るイームズのシェルチェアのオリジナルが、1脚15ドルで手に入った。日本での販売価格は、3万円前後だからかたっぱしに買い漁る。
要らなくなったモノを引き取り安く販売するスリフトストアへいけば、リーバイスのヴィンテージデニムやナイキのエアージョーダン1のスニーカーも10ドル程度で見つかるのだから、ヒマさえあれば足を運ぶ。古着ジャンルになるとアメリカ人バイヤーもいたりして、俺のシマを荒らすなとよく因縁つけられ言い争いをしたものだ。
地方に出たときは、閉店する靴屋の倉庫を見せてもらう。田舎のさらに田舎だから、売れ残り在庫はすべてヴィンテージ。70年台のナイキやコンバース、アディダスが山積みで、ネズミがちょろちょろしてるけどそんなことには目も触れず。1足5ドルのまとめ買い。価値の高い順に車に積み込めるだけ積み込む。
ひとりで買い付けもできるようになってきたある日、日本から新品スニーカーの依頼があった。時代を網羅したあのナイキ<エアマックス95>。集められるだけ集めてくれと、フットロッカーをはじめアトランタ中のスニーカーショップを駆け回った。お店の店長に50ドル握らせて、USサイズ8~12を今あるモノと今後入ってくるモノ全部買うから連絡くれと、手分けして何十件も抱え込む。結果、日本に送ったのは200足はくだらない。
ネルソン、サーリネン、ベルトイア、ラッセル・ライトの陶器からローライフレックスのカメラまで。ミッドセンチュリーブームの走りの時代。いろんな出来事まだまだあるが、この辺でやめておこう。
「まとめ。」
とにかく没頭したバイヤー時代。
利益のうれしさもあるけど、それより写真でしか見たことがない希少なモノが目の前に現れたときの驚きたるや、まさに『お宝探し!』。毎日が感動のオンパレード。
知識があれば、パーッと見渡すだけでモノのほうから光を放ってくる。当初『こばお』がそう教えてくれたが、絶対カッコつけてると思っていた。。。が、間違いだった。知らぬ間に、ボクの中にもそんな能力が培われていた。
『こばお』すまん!
なにかに自己陶酔する勝手な幸せ。
情熱を傾けることを忘れたくないし、いつまでも持ち続けていたいと願う。