第百三十六話 立ち食いそば。
毎週日曜日は『じろうの道草』コラムの日。
さて今週は、”立ち食いそば”について話をしてみよう。
それではどうぞ。
「妄想タイム。」
飲食店をやるなら何をやりたいか、かなりの頻度で湧き上がる妄想。いつもアタマに浮かんでくるのは『立ち食いそばや』。町のお蕎麦やでもなく、セイロしか出さないこだわり蕎麦やでもない。”富士そば”や”ゆで太郎”などのチェーン店でもいいのだが、できることならおじさんひとりでやっているような個人のお店が理想的。
馴れ初めは小学生のとき。塾の目の前に『立ち食いそばや』があり、必ず授業の前にかけそばを食べていた。寡黙な店員のお兄さんとはほとんど会話をしたことはないが、ある日なにも言わずコロッケをサービスしてくれた。そこで初めて顔を覚えてくれていたことを知り、じんわりうれしく思った記憶。こういうコミュニケーションに、シブさを感じニクさを知ったとある一日。
『立ち食いそばや』は、提供から食べ終わるまでの短い時間、客と店員との絶妙な距離感、旨すぎず不味すぎず飽きさせない妙、毎日でも通える健康食と低価格など魅力がいっぱい。ひとりでサラッと立ち寄れるお店としては完璧とも言えるのではないだろうか。日本の伝統的な食べ物であり、ファーストフードのはしりでもある『立ち食いそばや』。ひと昔前は各駅にたいてい一軒はあったが、最近めっきり目にする機会が減っている。だからこそ、『立ち食いそばや』復活をかけての妄想は広がる。かき揚げはどんなのにしようか、いなり寿司やおむすびなんかも外せないし、働く人は愛嬌のあるおばちゃんがイイ。店内は小さくて古ぼけてるぐらいが理想的だし、外にも食べれるスペースを確保したい。永遠に続く妄想タイム。
純喫茶も町中華も『立ち食いそばや』も、雑多なところが最大の魅力。雑多であるがゆえに、格好なんかつける必要がない。肩の力が抜け、心が緩み、本来の自分を取り戻す。
アナタの生活に、そんな場所はありますか?
「まとめ。」
以前、和田アキ子が興味深いことを言っていた。
「パチンコ屋では、医者だろうが学生だろうが肩書きがどうかなんて関係ない。一番エラいのはたくさん玉を出している人であり、みんなから羨ましがられるのがパチンコ屋。」
有名人のアッコさんにとって、仕事を忘れ人の目も気にせず自分が自分でいられる場所なのだろう。
『立ち食いそばや』では誰もがそばをすすり、腹を満たして早々に立ち去る。気取っている暇などない。粋でいなせでせっかちな江戸っ子の気質を、どうしても『立ち食いそばや』に投影してしまうのだ。
誰か、『立ち食いそばや』で引き継ぎ探している人知りませんか~
それではまた来週!