第百二十五話 夜中の訪問。
正月も終え、成人式の3連休も終えて、いよいよ通常運転再開です。
今回は、以前からの知人ではいたものの一歩踏み込んだらグッドオールドボーイだったという話。
それではどうぞ。
「結局は!?」
ゴルフコンペの仲間でもあり、大先輩でもあるひとりのおじさん。
歳のころは70代中盤、棟梁でもあり建築関係のヒト。初めてお会いしたのは7年前、見た目怖くてぶっきらぼう、声のトーンも低いし、完全にあちら方面のヒトだと思っていた。一緒にラウンドしても、打ち解けるどころか自分のことを嫌いなんじゃないかとずっと心配するほど無愛想。そんなこんなを数年過ごし、ひょんなことから料理と麻雀の話で盛り上がり、一気に雪解けを迎えることになる。
棟梁の料理好きは、まさに一本筋が通っている。魚も野菜もいつも市場まで足を運んで買い物をする。産地でしか出回らない希少なものや季節の旬なものも直接現地に手配する徹底っぷり。素材やら下ごしらえやらの知識も豊富で、すべて自らで行うなかなかのオタク気質。
そんな棟梁に誘われ、夜中の0時過ぎお宅に訪れることになった。失礼かとは思ったが、強引でもなくなんともセンスある誘い文句について行こうと思わせてくれる自然な感じ。。。こりゃきっとモテてしょうがなかったことだろう。こんな夜中にも関わらず、帰るや否や奥様に「コーヒー淹れてくれ!」とひと言。ぐるぐる手で回すミルで挽きたての美味しいコーヒーをいただく。落ち着いたウッド調にモダンをミックスした洒落た部屋。グラフィックデザイン会社も立ち上げたばかりと言っていたし、強面の見かけとは違う棟梁の奥深さを垣間見る。
そこからお酒なしのおじさんふたり、夜中の料理談義に花を咲かせる。会話に出てくる料理を答え合わせのようなタイミングで、小皿に分けて持ってきてくれる奥様。棟梁は棟梁で、天然の舞茸を乾燥させたから、青森の新巻鮭を1匹仕入れたから、白菜を漬けるのに凝ってるからと言い、バッグに入りきらないほどたくさんのおみやげを持たせてくれる。
後日、教えていただいた通りに舞茸の炊き込みご飯を作り、新巻鮭を焼き、あまりの美味しさにくるヒトくるヒト片っ端に食べさせる。棟梁からのお裾分け。『食はクリエイティブであり、アート。』と言う棟梁は食すことも好きだけど、こうやってヒトにあげて喜んでくれるのが楽しいのだという。
なんでも突き詰めて謳歌する棟梁は、いまだに月3回は行くというゴルフおじさんでもある。
「まとめ。」
『昭和の男は格好いい!』
きっと奥様は大変かと思いますが、それでも棟梁のあのギャップは魅力でしかない。ぶっきらぼうの中にある底知れぬ優しさは、誰がなんと言おうとグッドオールドボーイ。
無愛想でとっつきにくい、なのに優しくて暖かい。そういう棟梁のことを奥様は熟知してるから、いきなりの夜中の訪問者にも笑顔でもてなしてくれたのだろう。ただの亭主関白ではこうはいかない。いまの時代ではなかなかお目にできるものではない。
ということは、『昭和の女が格好いい!』から『昭和の男は格好いい!』ということなのではなかろうか。懐の広い奥様の手のひらで踊らされてるおじさんふたりの一夜の話。
それではまた来週!