第三十八話 みたらしといなりと上島竜兵
国民的お笑い芸人、上島竜兵がこの世を去った。
今週一週間、芸能界から一般の人までいろんな人のコメントを見て、なんとも言えない気持ちになった。元ダチョウ倶楽部で電撃ネットワーク南部さんのYouTube『上島竜兵の訃報について。』では涙が出てきた。
今回、この件について話をしようと思ったが、あまりにも切なくなりすぎて筆が一向に進まない。だったらいつも通り、ライトな日常話にしようと切り替えて、最近ハマっている昔ながらの食べ物の話にすることにした。
冒頭とはまったく異なる趣向だが、一読あれ。
「みたらし。」
仕事で月に数回、浅草橋に行くことがある。
もともと中学が御徒町ということもあって、台東区あたりは土地勘のあるエリア。足を運ぶたびに懐かしさと変化に心突かれる。取引先の社長さんに、ある和菓子屋さんを教えてもらった。
『亀屋大和』
浅草橋にほど近い、馬喰町にあるお店。創業は江戸期という老舗店で<みたらし団子>が有名とのこと。テレビや雑誌などにも取り上げられているが、昔ながらの趣ある小さなお店。そこがまた惹かれる。
<みたらし団子>が有名といってもラーメンやカレーじゃあるまいし、そう違いがあるものかと大した期待はしていない。残りわずかの団子を買って、社長とともに会社までの道すがら食す。「えっ、旨すぎるんですけど!」コンビニの<みたらし団子>とはわけが違う。餡は醤油の味と香りが際立ち、品の良い程よい甘さがあとにひく。餅の素材の味と食感に少し焦げたところが香ばしい、なんて美味しい団子なのだろう。
あまりにも美味しすぎて、毎回行くたびに必ず立ち寄ってしまう。草餅、かしわ餅、どら焼きと、なに食べても絶品。騙されたと思って一度ご賞味あれ。笑っちゃうほど旨いから!
「いなり。」
それともうひとつ、最近なにかっていうと<いなり寿司>ずいている。
そば屋さんのトッピング、和菓子やさんからコンビニまで、目につくとついつい頼んでしまう。下町っ子だけに、甘くてしょっぱいのが大好きなもので、天丼やかんぴょう巻き、卵焼きなんかも甘いほうだと喜ばしい。
<いなり寿司>には思い出がある。
雑誌の周年パーティーで、<いなり寿司>を来場者のおみやげにしたことがある。パリだのロンドンだのと謳っている洒落たファッション誌のおみやげに、なんで<いなり寿司>だと内輪関係者からはさんざんな反応。だけども、当時の責任者がゴリ押ししてくれたというありがたい経緯がある。
<いなり寿司>にしたのには意味があった。
いつの時代も変わらずみんなに愛される雑誌であってほしいという願い。それとパーティーのコンセプトが銀座のクラブのように、シックで高級感のある大人の空間でおもてなししたかった。クラシックの生演奏などの演出も加え、来場者の”おもたせ”として紐のついた箱の<いなり寿司>をお持ち帰りしていただきたかっただけなのだ。
その際、お渡ししたのが『神田志乃多』の<いなり寿司>。
こちらも明治時代からの老舗店。タレが滴るほどの甘くてしょっぱい<いなり寿司>で、小さい頃から食べ慣れた味。300箱引き取りにいったのも思い出のひとつ。
お茶とともにいかがっすか。
「まとめ。」
<みたらし団子>に<いなり寿司>だなんて、まったく歳をとったものだと実感させられる。
決して我々の時代の食べ物ではないし、もっと美味しいものなんていくらでもあるっていうもの。だけど、これら昔ながらのものって数百年愛され、いまなお無くなっていない普遍的な存在。現代のコンビニにも、必ずと言っていいほど置いてある定番商品。
<みたらし>に<いなり>。
<御手洗>に<稲荷>。
古来日本で行われてきた神事、神道にまつわる名前の由来もまた、ありがたみすら感じてしまう。
「口が変わる」ってよく聞くけど、まったくその通り。
どんどんシンプルで素材の旨さがわかるようになってきた。これは生活にも言えるようで、アクセサリーなんて必要ないし、背伸びをするようなこともしなくなった。身の丈も知っているし、格好つけたりすることも必要ない。あくまでも自然体なシンプルスタンス。これが大人になるっていうことなのだろうか。
今も昔も人々に愛され必要とされているものには、そこに陰ることのない本質的な良さが詰まっている証明なのではないかと思うわけで。ただ古いものが良いと言っているわけではないということをご理解いただきたい。こういったことも、今後GOBで推奨していけたらといきなり思い立った。
まとめを書き終えても、やっぱり上島竜兵がずっとどこかで引っかかってるみたいだ。
先輩からも後輩からも愛され、まじめで、人間らしさ溢れる上島竜兵。ちょっと早すぎやしないですか。貴方こそ、たくさんの人を笑顔にできて、たくさんの人を救える存在なのですから。本当に惜しい人を亡くしたと、まったく関係のないボクですら思わずにはいられない。
哀悼の意を表すとともに、ご冥福をお祈りします。
道草次郎